蜜月まで何マイル?

    “お昼寝のワケは?”
 


グランドラインの気候はランダムで、
一年をかけて巡る四季とは別口の“四季別海域”が、
デタラメな順番で隣り合っているものだから。
酷暑の夏海域の隣りが厳寒の真冬ということもザラだし、
夏海域の真夏や、冬海域の真冬の凄まじさといったら、

 「大変でも通過するしかないんだものね。」
 「そうなるわね。」

何しろ 磁場の強い島々ばかりという航路、
普通一般の羅針盤では針も定まらず、
島を出ればそのまま あっと言う間に方向を見失うこと請け合いで。
ここならではな特別製の磁針にて、
通過点の磁場に ある程度滞在することで“ログ”を溜めないと、
次の島への進路が見つからぬという仕組みとなっているので、
どんな環境の島でも海域でも“パスいち”と避けるワケにはいかない。
そして、そんな苛酷な航路だが、
あいにくと当船のクルーたちには 逃げ出すつもりなどさらさらなくて。
各々が目指す夢へ辿り着くため、
どうしても踏破しなくてはならない場所なのであり、

 「とはいえ、
  余計な騒動にわざわざ首突っ込むのは願い下げだけど。」

みかん色の髪した航海士さんが むうと唇を突き出したのは、
せっかく温暖安寧な海域に居たっても、
人的な すったもんだ、
とんでもない波乱に飲み込まれてる真っ最中な島や里へ、
それは無防備に飛び込む“考えなし”な存在が、
選りにもよって“船長”だったりする船だからで。
そんなお陰でどれほどの災禍に遭ってきたことかと、
憤懣やる方なしなのも ごもっともだが、

 「あら、そういうのもステキじゃない。」

いいお天気の下、
青々とした芝生も目映い甲板に持ち出した大テーブルへ、
造花やオーナメントなどで飾り付けをしていた相方のお姉様には、
その程度じゃあ可愛い寄り道か、
自分だけでは想いも拠らない体験が出来てと、
楽しそうにころころと微笑うから なかなかの器と言えて。

 「…ロビンも、ある意味 冒険家ですものね。」
 「ふふ、ありがとうvv」

褒めてないってばと、ちょっとばかり むうと膨れるナミへ、
ロビンもロビンで“判っているわよ?”とあでやかに微笑う。
そんな女性陣二人から やや離れたところでは、
一家自慢の匠でもある船大工と、
本来は狙撃手だが 発明家でもある名工が、
二人掛かりで何やら細工ものをこしらえているらしく。
びっくり箱か、それとも手妻のボックスか、
どっちにしたって似たようなものだろに、

 「鳩が出るったってそんなもん何処にいんだよっ。」
 「お? 俺には不可能はねぇと常々言ってるだろうが。」
 「鋼鉄のおもちゃを仕込む気か?
  そんな重いもの、
  飛び出した途端に顔にめり込む 凶器になっちまわぁ#」

何が出て来るかで意見が合わぬか、
身振り手振りも大きく、真剣な討論が加熱中。
こうまで にぎやかな騒ぎの中だというに、

 「…おおっ。なんだ、ルフィもゾロも此処にいたのか。」

キッチン&ダイニングからひょこりと出て来た、
今日はシェフ殿の助手を担当しておいでのトナカイ船医殿が、
声も気配もしなかった存在が、
ドアわきの壁に凭れ、ある意味お揃いのポーズで空を仰いだまま
そりゃあ おおらかにお昼寝中だったものだから、
どひゃあと飛びのきつつ驚いて見せ。
当然、とうに気づいていた甲板組らが、
そんな彼の愛らしい動きへ“あはは”と笑う。
ご本人はさすがに恥ずかしかったか
“何だよぉ、笑うなっ”と、
手近にいたナミの足元まで駆けてって
ぴょんぴょん跳びはねつつ抗議をするものの、

 「ゾロはともかく、ルフィまでとは珍しいわよね。」

そんなお言葉こそが意外だと思ったか。
ロビンの言いようへは
憤懣も何処へやらで“はにゃ?”と小首を傾げ、

 「そか? することなけりゃ、どっちも昼寝大好きだぞ?」

オレ、知ってるもん、なあそうだよな、と。
周囲のお仲間たちへも確かめるよう、
小鳥のさえずりみたいな幼い声で言いつのれば、

 「ええ。私もそれは知ってるけれど。」

長い御々脚を優雅に折り曲げ、
わざわざ屈み込んだロビンがお花のようににこりと微笑い、

 「剣士さんはともかく、船長さんの方は、
  周りが何かしていて にぎやかだと、
  こうまで落ち着いて寝てなんかいないでしょう?」

 「あ…そか、そうだった。」

海も穏やか、風も順風、
そんな和やかな昼間は ぐうぐうと昼寝しちゃうルフィだが、
それは“することが何もないから”で。

 「船医さんからは、こんなに甘いいい匂いもするから、
  キッチンでは骨つき肉のローストと、
  フルーツトマトのタルトや、
  みかんのソルベも仕込んでいるのでしょうに」

 「そるべってなんだ? シャーベットならあるけど。」

つぶらな瞳を瞬かせ、キョトンとするトナカイさんへ、
ますますと眸を細めてにぃっこり微笑った考古学者のお姉さん。

 「騒ぎと御馳走の両方が揃ってて、
  なのに ああまで熟睡してるなんて珍しいでしょう?」

訊かれたことをさりげなくスルーしつつ、
いい子いい子と 頬を撫でて差し上げれば、

 「そかー、それは変だよな。」

よっぽど眠いんだ、ルフィ…と、
そういう方向へ納得したらしい、やはり素直なチョッパーだったが、

 “こちとら、今日の下準備で忙しかったのによ。”

彼らの背後、それは広々したキッチンで、
その痩躯の何処にそんな怪力が備わっているものか、
特大クロマグロがそのまま湯がけるだろう巨大鍋を揺すって、
野菜多めのパスタだろうか“ザッと炒める”作業を苦もなくこなしていたサンジが、
その内心で思い切りぶうたれている。
とはいえ、そのお顔は何となく微笑ましげでもあって。

 『なあなあサンジ、
  俺んコト、夜中に起こしてくれねぇか?』

 『はあ?』

さすがは天真爛漫、お天道様みたいな我らが船長は、
冒険の匂いがするときと 宴が始まるときを例外に、
陽が沈むとそのまま素直に眠くなる体質らしく。
夕餉の後片付けを終え、
翌日は宴になる予定の食事の仕込みを始めかかっていたサンジの傍まで
ちょろちょろっと寄って来ていた小さな船長。
そんな妙なことを、
この大雑把な彼には珍しいほどの小声で依頼して来た。

 『目覚ましでも掛けとけよ。』
 『そんなもんでこの俺が起きられると思ってか。』

威張るトコか そこ…と、理不尽なものを覚えつつ、
だがまあ、
くあ〜〜っと今から大欠伸を洩らしつつ、
そのくせ、
夜陰 垂れ込める中でも警戒心はちゃんと冴えているらしい剣豪が、
停泊中の見張りに立つところを、視野の片隅で捕らえてもいて。

 “……ははぁん?”

何処で誰に訊いたやら、
明日が誕生日だという誰かさんへ、
一番最初に“おめでとう”と言いたいか、
それとも…最初に見るのが自分の顔だとしたいのか。

 “女学生か、おい。”

かわいい奴よと、零れそうな苦笑…というか
ぷふっと吹き出しそうになったのを何とか押し隠し。

 『判ぁったよ。
  起こしてやるが、かかと落としで起きなかったら知らねぇぞ?』

 『おうっ♪』

何とも物騒な取り決めを、ちゃんと実行してやったのが今朝未明。
きっとその反動で眠くて眠くてしょうがない彼だから、
このにぎわいの中でも、
サンジ特製 香味ソーセージの炭火炙りの匂いにも
誘われることなく熟睡しているのだろうて。

 “ま、こればっかは俺も共犯者だから知らん顔をしといてやるが。”

早いめの晩飯には起きて来なけりゃ容赦せんぞと、
隠しようのない苦笑を噛みしめておいでの、
こちらも うら若き匠で、
しかもしかも人の機微へも敏感な、
いい味出してる シェフ殿だったりするのであった。


  
HAPPY BIRTHDAY! TO ZORO!!



     〜Fine〜  14.11.12.


  *ちゃんと間に合うように書き始めていたのに、
   手が塞がって、結果 出遅れてしまいました。(うう…)
   剣豪、お誕生日おめでとうですvv
   本誌ではクライマックス直前の大混戦、
   全員がそれぞれの正念場で大活躍中ですね。
   これまでの七武海とは、
   クセというかアクの強さが違う相手、
   まだまだ長引くかもですが、頑張れ頑張れ!!

ご感想はこちらまでvv めーるふぉーむvv

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